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手形上の権利発生の法的理論のことを、手形理論という。

 

手形は振出されることによって権利が生じる(設権証券性)。しかし、何を持って「振出」と考えるか、その法的構成に関する学説には、交付契約説(契約説)、発行説、修正発行説、創造説がある。このうち、判決例・通説たる交付契約説と、有力説である創造説の一種の二段階創造説が大きく対立している。

 

この対立は、振出人が手形に署名したが、受取人に交付する前に盗難などに遭い、その後その手形が振出人の意思に反して流通に乗せられてしまった場合において先鋭化する。このように手形は作成されたが交付がなされずに流通した場合を、交付欠缺(こうふけんけつ)と言う(「欠缺」とは「不存在」の意)。この場合、作成者の意思に反して流通してしまった手形も有効な手形であるとして手形に署名した者を振出人として手形上の債務を負わせることができるのかどうかが問題となる。

 

交付契約説

交付契約説は、手形が作成されただけでは足りず、交付されなければ手形上の権利が発生したとはいえないと考える。このため、交付欠缺の場合は、手形署名者は振出人としての責任は負わないことになる。

そうであるとすれば、理論上は善意の手形所持人(交付欠缺を知らずに手形を取得した者)が予期せず不利益を被る可能性が生じる。そこで、交付契約説を前提としながらも、交付欠缺があったことについて手形所持人が善意・無重過失であれば、交付欠缺がある場合の署名者も振出人としての責任を負うという権利外観理論が提唱された。この交付契約説+権利外観理論が通説であり、判決例も認めるところである(最高裁判所第三小法廷昭和461116日判決 民集2581173頁)。

二段階創造説

二段階創造説は、手形は作成された時点で手形上の権利が発生し、交付により手形上の権利が移転すると考える。このため、交付欠缺の場合は、手形署名者は振出人として手形上の債務を負うことになる。

二段階創造説によると、取引の安全が正面から確保される一方で論理的矛盾や過度の擬制(手形の作成時においては署名者が署名者自身に対して手形債務を負担することになる)を伴うという批判や、交付欠缺という例外的事例に対処するために原則論をゆがめるものであるとの批判がある。

(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より)

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